このひと坂のヒト・劇団黒テント


斎藤晴彦さん(演出、トリゴーリン役)


――― 黒テントが神楽坂に拠点を移されて2年になりますが、神楽坂という街にはどんな印象を持たれていますか?


僕の場合は、もう随分前ですが、両親と一緒に矢来町に住んでいたんですよ。当時はまだ大久保通りに新宿から水天宮へ行く都電が走っていたんですが、いつもその電車に乗っていたりしました。ですから、神楽坂はその頃からのなじみの街なんです。
今度奇しくも劇団が神楽坂に来るということになって、懐かしかったですね。都電こそ走っていないですが、裏へ行くと全然様子が変わっていないですね。こういう街というのは、やっぱりそう簡単に変わらないんだなと思います。
もちろん近代的なものはいろいろあるんですが、例えば居酒屋なんかに行くと地元の人がみんなで飲んでいたりして、地元という感じ、そこでずっと生活している人たちがいるという雰囲気がすごく強いような気がします。

――― 地域の人たち、例えば商店街の方々からも、置きチラシのお願いに来たりする劇団員の皆さんがとても礼儀正しく、応援したい気持ちになるという話をよく聞きます。
やはり、こうした地域の人々との結びつきを大切にしようという気持ちが劇団の中にあるのでしょうか?


そうですか(笑)、とてもありがたいことです。
それはもちろんで、この建物(theatre iwato)をお借りした時に、持ち主の方がおっしゃった言葉ですごく良いと思ったのが「とにかく近所に迷惑をかけないこと」「嫌われないように」というものでした。やっぱり、芝居をやってる人間に場所を貸すというのはいろいろご心配もあったんでしょうが、条件はそれだけだったんです。
なので、僕たちもそれを肝に銘じていて、ともすると芝居をやってる人間というのは自分たち中心になって、そこにいる人たちにあまり礼儀正しくない場合というもありますが、そういうことが絶対にないようにしようとしています。
好かれようとかそういうことではなく、チラシを置かせていただいたりするんですから、礼儀正しくお願いするのは当然のことですから、みんなで「礼儀だけは守ろう」ということは言っていますね。

――― 『かもめ』に限らず、例えば昨年斎藤さんが演出された『メザスヒカリノサキニアルモノ若しくはパラダイス』(松本大洋作)や前回公演の『籠釣瓶花街酔醒(かごつるべさとのえいざめ)』を見ても、わかりやすい、敷居を感じずに入ってこられる芝居というのを、黒テントは意識しているように思いますが。


そうですね。結局、お客様というのはいろんな方がいらっしゃって、それぞれ趣味も好みもあるので、全員に良かったと言ってもらえるというのは難しいと思うんです。演じる時には、僕がお客さんだったらどうだろう、僕が客席にいたらどうだろう、というのを考えています。
そうすると、わかりやすくないと面白くないという自分の好みがあるので、本当に素朴な芝居になってしまうんですよ。それは別にエンターテインメントでなければいけないということではないんですけれど、とにかくストーリーがわからなかったらつまらないという風にどうしても思っちゃうんですよ、このごろ。まあ、年取ったというのもあるかもしれませんが(笑)。
だから、『かもめ』もわかりやすくストーリーが展開しないと、僕自身がつまらないと思うんですよ。ですから、考えているのは自分自身が客席にいたら楽しめる芝居を作るということだけですね。

――― わかりやすいということを第一に意識しているわけですね。では、『かもめ』をご覧になるお客様に特に見ていただきたい点や、意気込みなどをどうぞ。


黒テントにもいろんな役者がいますが、単純に言うと、誠心誠意やるということに尽きますね。上手いとか下手で言うと、そんなに上手い俳優もいるわけじゃないし、心をこめて演じるということに尽きると思うんですよ。
神楽坂にお住まいの皆さんにぜひ見ていただきたいという気持ちはもちろん、僕らみんなが持っています。神楽坂に来る以前から黒テントの芝居をずっと見続けているお客さんもいらっしゃいますが、それぞれの人たちがどんな芝居を面白がっているのか、すごく興味があります。『かもめ』を見ていただいて、中には「何だこりゃ」と思う人がいてもしょうがないと思うんです。けれど、正直にそれを言っていただきたいですし。
大衆演劇、とてもわかりやすい芝居、と言っていてもやっぱり僕らの芝居なんですよね。
ですから、チェーホフの『かもめ』と言っても黒テントの個性を出して行きたいし、それをご覧になった神楽坂のお客様とがうまく向かい合って、「なんか難しかったね」と言って帰る人がいても良いですし、「面白かった」という方もいて、帰りに議論でもしていただければ面白いと思うんですね。

――― ではまず『かもめ』をご覧になっていただいて、そこからまた新しい何かが始まると良いということですね。


そうなんです。

→ 次のページへ