◎ ここまでのインタビューでも私たちは当然のように「コンテンポラリー・ダンス」という言葉を使ってきてしまっていますが、その言葉自体に具体的なイメージを持たない方も多いのではないかと思います。では、一言で言うことは難しいとは思いますが、コンテンポラリー・ダンスとは簡単に言えばどんなダンスなのでしょうか?

それに答えるのはとても難しい。非常に曖昧な概念ですからね。その前に「モダンダンス」というものもありましたしね。我々としてはいろいろなジャンルのものがクロスオーバーしている時に、あまり細かなジャンル別けはしたくなくて、単純に「ダンス」と言ってしまいたいんですが、ただ「ダンス」というと「社交ダンス」と受け止められることがあるので、仕方なく「コンテンポラリー・ダンス」という言葉を使っているようなところがあります。

では、モダンダンスとコンテンポラリー・ダンスの境界線は何かというと、これもまた難しい。いろんな考えがあると思いますが、私の捉え方ではモダンダンスというものでは、内面的な世界の表現に重点が置かれることが多いのではないかと思います。もちろん人によって千差万別ですが、それに対してコンテンポラリー・ダンスは、身体そのものの動きの面白さや表現の可能性を見せていくところに力点が置かれているように思います。ですから、私はダンスを見るときは、あまり意味性を考えないようにした方が面白いと思いますし、そういう見方をしていますね。逆に質問すると、あなたはどんな見方をしています?

◎ やはり、まずは、何か「面白い!」と思わせてくれるような動きをしてくれるということは大事ですよね。もちろん、単なる動きの面白さだけでなく、そこに深い意味を持たせる人もたくさんいますが、そういった様々な表現があり得るということ自体が魅力的だと思います。

作る人はもちろんその人なりの物語やコンセプトがあるわけですが、見る人はまた自由に想像して構わないと思います。

◎ 何か1つの答えがあるわけではないということですね。

そうですね。

◎ 最近はコンテンポラリー・ダンスの振付家が、現代演劇の公演で振付を行うなどの動きもありますね。

だんだんクロスオーバーしているところがあって、演劇の方でもダンス的なものを取り入れたりしていますよね。今度、野田さんの作品に近藤良平さんが出たり(注3)していますし。

セッションハウスでは以前、木佐貫邦子さんが公演をした時に、今井朋彦(注4)さんという役者が出演して、とても面白かったことがありました。彼が、「ヨーロッパに行って勉強していた時に、向こうの役者はダンスの訓練をしっかりやっていて、やはり同じ身体表現として、役者も当然そういうことをやるべきだと言われた」という話をしてくれたことがあるんですが、帰国後今井さんもダンスのレッスンに力を入れ始めたというんです。その結果でしょうか、木佐貫さんとのデュオでも、非常に面白い動きを見せてくれました。ダンスというものが、だんだん、そうやって境界線を越えて、当然のことといえば当然のことなんですが、ダンス的な動きも得意な役者さんも増えてきているようですね。ダンサーとは違った動き方をするので面白いですし、それによってダンスの世界も豊かになりますからね。

◎ 異質なものとの触れ合いという点では、海外のダンサーとの交流事業も盛んに行われていますよね。

それは意識してやっています。韓国にしろ、イスラエルのダンサーにしろ、身体の訓練の方法が日本とかなり違いますから、ワークショップや公演を通じて、日本のダンサーにもいろいろな影響を与えていると思います。それがどういう形で現れるかは、まだ見えてきませんが、セッションハウスのような小さい劇場で、間近で身体の動きの隅々まで見ることができるというのは、たいへん刺激的なことのようです。もっとも、セッションハウスは小さい民間の劇場ですから、大規模な形での交流や招聘などは出来ませんが、1人や2人の少人数での招聘で実のあることをやるように心がけています。

去年はイスラエルのカンパニーから2人の振付家を招いてマドモアゼル・シネマと共同で作品を作りましたが、その作品は、日本のことわざを基にして動きを作っていくものでした。衣裳も新しく作るのではなく、おばあちゃんやお母さんから受け継いでいる古い着物なを使いましたが、海外の振付家が、日本の伝統的な素材を使って、日本人の女性に振付けるという試みは、作品の出来不出来がどうかということは別にして、異文化が交錯しあう非常に面白い経験でした。

◎ 最近は昨年の「神楽坂まち飛びフェスタ」でマドモアゼル・シネマの皆さんが街頭で踊ったり、街との関係を強めているように見えますが、神楽坂という街に対してはどのようにお考えですか?

ここが神楽坂のダンスのメッカ。

実は、17年前にセッションハウスを始めたころは、あまり地元に対する意識はありませんでした。公演をする人も、レッスンを受ける人も観客も、別に神楽坂に住んでいる人ではなく、東京周辺のいろんなところから来るわけですから、特に街に対して発信するという考えはあまりなかったように思います。

しかし、地元のタウン誌などでとり上げられ、逆に気付かされたと言いますか、神楽坂という街には伝統的な要素というのを強く感じていたので、私たちのやるような現代的なものはあまり注目されないのではないかと思っていたのですが、そうではないということがだんだん分かってきました。それ以来、徐々に街の中に私たちも入り込んでいったわけです。

もう2年前のことになりますが、国際交流の企画でブルガリアの大学からダンスをやっている学生と先生10名を招いてさまざまなプログラムをやったことがありました。その時には、神楽坂の街の方々に宿泊場所を提供していただいたり、街案内をしていただいたりしたことがありましたが、それ以来街との関係を今まで以上に強く意識するようになったと思います。また、マドモアゼル・シネマが「まち飛びフェスタ」に参加し、「坂にお絵描き」の時に路上パフォーマンスをさせていただいたことも、街を意識する上で大きい体験でしたね。これからも、地元とのつながりを大事にして、一緒にいろいろな企画を実施していけたらと願っています。

◎ 今後も神楽坂の人々との「出会い」の中から新しい何かが生まれてくることに期待したいですね。ありがとうございました。

取材・文/日置貴之、写真/渡部晋也

注1:振付家・ダンサーの近藤良平ら男性ばかりのメンバーから成るダンスカンパニー。最近ではNHKの教育番組を始め、各種メディアでの露出も多い。
注2:パントマイムのテクニックを基本としたダンスで注目を集めた4人組のカンパニー。現在は団体での活動を休止して、個人での活動を行っている。
注3:2007年6・7月に上演された野田秀樹作・演出の『THE BEE』(日本バージョン)に、近藤良平が出演し、人気ダンサーの台詞劇への参加ということで注目を集めた。
注4:文学座所属の俳優。『コペンハーゲン』(新国立劇場)などに出演。